医療現場における微生物、バイオフィルムについて
微生物と菌
人間の目に見えないくらい小さい(大きさが100μm未満)生物を総称して微生物と呼びます。
微生物は大きく分けて核や細胞小器官をもたない原核生物とミトコンドリアや細胞小器官をもつ真核生物、そして非細胞性の3つに分けることができます。原核生物には細菌や古細菌、真核生物には真菌、藻類、原虫、非細胞性のものにはウイルスやプリオンが分類されます。中でも細菌、真菌、ウイルスは臨床で特に問題になりやすい微生物として知られています
山西弘一 監修. 標準微生物学第9版. 医学書院. 2007. P29
細菌、真菌、ウイルス
-
細菌
大きさが1μm程度の原核生物であり、無性生殖で増え、桿菌、球菌、螺旋菌等様々な形状のものが存在します。細胞に核はなく細胞小器官もない単細胞生物です。細胞壁の構成成分の違いに基づく染色特性の違いから大きく2種類に分けられます。大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、枯草菌、結核菌などが知られており、人工透析環境や内視鏡に関連する感染症・合併症は主に細菌が原因となることが知られています。細菌による感染症には抗生物質による治療が有効ですが、近年は薬剤に耐性を獲得した個体が多く出現し、問題となっています。人工透析環境では豊富な栄養環境で育つ一般細菌よりも、従属栄養細菌と呼ばれる低栄養環境下でゆっくりと増殖する細菌種が問題になります。 -
真菌
細胞の大きさが数μ~10μm程度の、細菌よりも大きな微生物であり、有性生殖でも無性生殖でも増えることができます。ふわふわとした糸状菌(カビ)形態、単細胞で存在する酵母形態、その両方の形態をとる種類がいます。真菌は真核細胞生物で、ミトコンドリアを含む細胞小器官、核を持っています。β-グルカンやキチンを主体とする細胞壁を持っており、麹菌や酵母菌、カンジダ菌、水虫菌などが知られています。人工透析環境や内視鏡に関連する感染症や合併症は少ないものの、稀に問題となることがあります。世界で最初に発見された抗生物質であるペニシリンはペニシリウムというアオカビから分離されたことで有名です。 -
ウイルス
大きさが0.01~0.1μm程度の細菌よりも小さな微生物ですが、自身のみでは増殖できないため、一般的な生物の分類には含まれません。カプシドと呼ばれるたんぱく質の殻の中に遺伝子が保管されている構造になっています。エンベロープと呼ばれる脂質膜を持っている種類と持っていない種類があり、エンベロープを持っている種類はアルコールや界面活性剤などの油を溶かす性質のある消毒薬に弱いことが知られています。コロナウイルス、ノロウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなどが有名です。人工透析環境や内視鏡環境での感染症に関わるウイルスとしては、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど、血液を介して感染するウイルスが知られています。ウイルスには細胞がないため、抗生物質が効かないことも特徴の一つです。
バイオフィルム
人工・自然環境問わず バイオフィルムは、固体表面と水が接する場所に存在します。
河川の小石や風呂場のぬめり、口腔内プラーク、腸内フローラなどがバイオフィルムと呼ばれるものであり、あらゆる場所でその存在を確認することができます。
バイオフィルムは環境浄化や、食品の製造などに利用させる反面、感染症や虫歯、金属腐食などの原因となり、生活に害を与えることもあります。
通常、細菌などの微生物は固体表面に付着してコロニーを形成し、お互いにある種の物質を介して情報交換をしています。これらが一定以上になると、より良い生育・増殖環境を作るために、一斉に多糖類を細胞外に分泌してバイオフィルムを形成します。
形成されたバイオフィルムは、個体表面に強固に付着し、内部に生息する微生物群を殺菌剤や乾燥などの様々なストレスから守る働きをします。
バイオフィルムは微生物の分泌する多糖に加え、環境中の汚れや、汚れの分解物も構成成分として含むため、環境により異なる性質を示すことが多く、環境毎に適切なバイオフィルム対策の検討が必要となります。
人工透析環境や内視鏡環境でもバイオフィルムは問題となっており、日々有効な洗浄・消毒方法が模索されています。